「源氏物語 夕霧」(紫式部)

夕霧の滑稽な役回り

「源氏物語 夕霧」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

病の一条の御息所を
見舞う夕霧は、
女二の宮へ恋心を訴えながら
一夜を明かしてしまう。
それは周囲の誤解を招き、
母子ともども苦悩する。
やがて届いた御息所からの手紙を
雲居雁が隠したことから、
事態は思わぬ方向へと転がり…。

源氏物語第三十九帖「夕霧」。
帖題が示すとおり、
やや長めのこの帖は夕霧が主人公です。
しかし、源氏の息子らしい
貴公子然とした描かれ方ではなく、
滑稽さが表に立った
二枚目的な役回りです。

夕霧の滑稽な役回り①
誤解が誤解を生み空回り

父源氏のような、
小粋な恋のやりとりではないのです。
二年もの間、
自分の気持ちをなかなか伝えられず、
ほのめかしても女二の宮には
気づかぬふりをされ、
全く進展していなかったのです。
御息所の病気療養のために
居を移した先で、
夜霧が深くなったのを理由に
泊まり込むのですが、
やはり女二の宮に拒まれます。
かといって
強引に事を進めることもできず、
何事もなく朝帰りとなります。

しかしそれが周囲の誤解を生み、
さらには御息所が誤解し、
何もなかったことが「あったこと」と
なってしまうのですから、
女二の宮にとっても夕霧にとっても
不幸な展開となるのです。

夕霧の滑稽な役回り②
一向になびかない女二の宮

夕霧がそんなに苦労しても、
女二の宮は一向になびきません。
その後、京に連れ戻して、
やはり強引に
夫婦生活を開始するのですが、
それでも女二の宮の心は
頑ななままなのです。
夕霧の立つ瀬がありません。

夕霧の滑稽な役回り③
愛想を尽かす雲居雁

さすがにそんな夕霧に、
妻・雲居雁も愛想を尽かして
実家に帰ります。
慌てて実家に駆けつけても
雲居雁はすげない態度。
結局別々に休むことになります。

子だくさんの円満な家庭として
描かれていた夕霧・雲居雁一家。
熱烈な純愛結婚の末の幸せな家庭が
もろくも崩れ去るのです。
何分にも真面目で堅物な夕霧が、
思い切って恋に走れば
このようになってしまうのは
仕方のないことなのでしょう。
まるで現代の家庭での
離婚騒動を見るようです。

それにしてもよく理解できないのが
作者・紫式部の意図です。
ことごとく滑稽に書かれてあり、
深刻さがありません。
あたかも一時的なものであり、
上手に女二の宮と心を通わせ、
雲居雁との間も修復されるような
予感だけを漂わせ、
この帖は幕を閉じるのです。
このあとの帖では夕霧や雲居雁、
女二の宮については描かれていません。
一体どうなったことやら。
千年後の読者は気が気でありません。
それも紫式部の
狙いだったのでしょうか。

ここでも悲劇が描かれ、
源氏崩御まで
あと二帖を残すのみとなるのです。

(2020.10.17)

Arek SochaによるPixabayからの画像

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